令和5年度 獣医師体験プログラム「人と共に生きてきた馬について」(3月17日)

                 

大阪公立大学の石川真悟先生を講師にお招きして、3月17日(日曜)に獣医師体験プログラムを開催しました。

大阪公立大学 石川真悟先生

今回のプログラムは「馬」のお話だったため、しあわせの村の中にある馬事公苑を会場にお借りして行いました。

まず、馬臨床学が専門という石川先生の自己紹介の後、馬とはどんな動物なのか、そして人と馬との共生についてのお話がありました。

人と馬の関わりには長い歴史があり、人が馬と共に生きていくことで、大きな利益をもたらしてくれる有利な面があるとのことです。

例えば、馬は草食動物ですが、人間が食べるお米を例に考えてみると、馬は稲の葉っぱなどの部分を食べますが、人間は稲の実=お米を食べます。馬は草をエネルギーにするため、人との間で食べ物の争いが起きません。

また、馬の身体の特徴も、人間と暮らしていく上で便利なようにできています。

馬の歯は前歯と奥歯の間に隙間があり、そこにハミ(馬をコントロールするために口にくわえさせるもの)を噛ませます。紀元前約4500年前にハミが発明されたことで、人間が馬をコントロールすることができるようになり、文明の進歩に対しても重要な役割を果たしてきました。今からいうと、約6000年以上も前から人と馬とは一緒に暮らしてきたと言えます。

馬はまさに、人間にとって「神様からの贈り物」とまで言われているとのことでした。

次に、馬の身体の特徴をお話して下さいました。

馬にはとても長い腸がありますが、人間にはあまり必要が無いと言われる盲腸は馬にとっては大事な臓器で、馬の盲腸と結腸は草をエネルギーに変える上でとても需要な働きをしています。

腸には良い細菌(腸内細菌)が住んでいて、馬と菌との共生により草の繊維をエネルギーに変えているそうです。

そして、馬の病気のお話もありました。

胃が4つある牛は胃の病気が多く、第四胃変という胃が捻じれてしまう病気が多いそうですが、馬は腸が長く大きいので腸が捻じれてしまう結腸捻転という病気が多いとのことでした。これは腸が捻じれることでお腹にガスがたまってしまい、治療としては全身麻酔をかけての開腹手術を行って、仰向けに寝かせて捻じれた腸を治すそうです。

では、自然界にいる馬はどうでしょう。自然界にいる馬もこのような病気になるのでしょうか?

現在、私たちが目にする馬は、競争馬や乗用馬など、スポーツのために飼育されている馬がほとんどです。

その場合、自然界にいる馬よりエネルギーが必要となり、自然界で生きる馬のように草だけでは足りず他に炭水化物等を食べさせるため、腸内バランスが崩れることで腸内細菌が死んでしまい、結腸捻転のような病気が多いそうです。

また、現代の馬は早く走れるように足が細くて長いため骨折しやすいそうですが、馬の脚には、なんと1tもの負荷がかかっているそうです。それ以外にも腱や靭帯の病気も多く、その治療には、幹細胞療法という特別な治療法が使用されることもあるそうです。

馬の獣医師というのは、人間のスポーツドクターのような役割をしているとのことです。

その他にも、先生が持って来て下さった馬の治療に使う道具を持たせてもらったり、映像を見せてもらうことで、子どもたちも馬についてより理解が深まったようでした。

そして、最後に先生から大切なお話がありました。

日本で馬が生産されている順位は世界4位で、年間7,000頭ほどの馬が(ほとんどがサラブレッド)生まれているそうですが、一年間に馬が生きている頭数というのは世界のランキングには上がらないほど低いそうです。

日本の馬はほとんどが競技馬でしか用いられていませんが、それに使えなくなってしまうと肉になったり安楽死をしたりして、若くても命を終えてしまうそうです。

ですから、引退馬のサードライフを支えるという意味でも、馬を保護する活動にも興味を持ってもらいたいですとお話がありました。

お話のあと、子どもからの「馬にも絶滅危惧種があるのですか」との質問に、「シマウマ等を除くと馬は大半が絶滅していて、今いる馬は選別されて残った馬です。サラブレッドという言葉の意味は“洗練されたもの”と言う意味があって、辿っていくと、もともと3頭の馬に行きつくと言われている」とのことでした。

終了後に、馬事公苑の厩舎を見学させていただきましたが、実際の馬を見て、「大きい!」と子どもたちは興味津々な様子でした。

アンケートからは、「人間と馬が6000年くらい一緒に暮らしているのがおもしろかった」「馬と人のちがいなどが面白かった!」「馬の病気の成り立ちや原因など、新しい事を知ることができて楽しかったです」という感想がありました。

今年度の「獣医師体験プログラム」は今回で終了しました。

来年度につきましては、下記よりご確認ください。

「獣医師体験プログラム」