令和5年度 獣医師体験プログラム「私たちの暮らしと動物とのかかわり」(1月28日)

兵庫県農業共済組合の畠中みどり先生を講師にお迎えし、「私たちの暮らしと動物とのかかわり」と題してお話をしていただきました。

先生の自己紹介の後、そもそも「家畜」とはどういう動物なのかというお話がありました。「ヒトが動物の繁殖をコントロールすることで子を産ませることが出来るか」ということが定義としてあり、畜産物を生産する畜産業のために飼養されている動物のことを、家畜の中でも産業動物と言います。

牛の種類の説明では、牛には肉用牛と乳用牛がいますが、日本国内の肉用牛の「和牛」は4種類に分類されています。世界で飼育されている乳用牛は約1億4000万頭いますが、その中で日本には約137万頭、そして兵庫県には約1.2万頭の乳用牛がいます。

肉用牛については、世界には約9億8515万頭いて日本には261万頭、そして兵庫県には5.9万頭いるそうです。

兵庫県について言えば、おおよそ地域で乳用牛と肉用牛の飼育が分かれているそうで、兵庫県の但馬や西播地区では主に肉用牛、阪神や東播地区では主に乳用牛、淡路島では兵庫県全体の乳用牛、肉用牛を併せた30%程が飼育されているそうです。

乳用牛の酪農場の牛は全て雌牛でオスが生まれたらそのまま肉牛農場へ売却され、メスはだいたい15ヶ月くらいで人工授精し、24ヶ月で出産したあと乳用牛になります。

肉牛については但馬牛(ぎゅう)と但馬牛(うし)の違いを教えていただきました。

牛(ぎゅう)と言うと肉のことを言い、牛(うし)と言うと生きている牛のことだそうです。

但馬牛(ぎゅう)の中でも、ある一定以上のしっかりとした基準を満たしているお肉を神戸牛と呼びますが、神戸牛より厳しい基準を設けているのは仙台牛だけです。

そして、牛の性格や特徴についてもお話くださいました。

牛はとても臆病な性格なので人間のことをよく見ており、育てる時に丁寧に優しく扱わないと人間が怖いと思ってしまい、扱いづらい牛となり、時には危険を及ぼすこともあります。

また、牛は200頭くらいまでは識別できるらしく、牛の中でもボスができるということで、世代交代や、ケンカもおきるとのこと。牛の数が200頭を超えてしまうと、常にあちこちでケンカが起きているという状況になってしまうと言われているそうです。

牛には4つの胃がありますが、第一胃は、ヒトが消化できない繊維をエネルギーに変える重要な役割があります。一方でブラックボックスともいえるそうで、病気をしたときに人では効く薬を与えてもここで分解されてしまうからです。これは人とは決定的にちがう働きをするということです。

ちゃんと必要なところに必要な薬が効くようにいろいろな工夫や薬の研究もされており、「一胃を制する者は牛を制する」とまで言われているとのことでした。

兵庫県下で牛を診察してくれる産業獣医師は、80人いるそうです。

牛にレントゲン撮影を行うときには、病院には連れて行けないのでポータブルレントゲン撮影機を持って行きます。これは撮影後すぐに映像で確認することができるものです。

そして、最近では牛が妊娠した時には人間のようにエコー検査も行うそうで、牛のお腹の中にいる赤ちゃん牛の映像を見せていただきました。映像では赤ちゃん牛が上を向いてちょうど口を開けているところが見え、子どもたちも映像に見入っていました。

赤ちゃん牛が横を向いて上をむいている映像

 

次に、豚のお話がありました。

豚の祖先はイノシシですが、イノシシは土の中を鼻先で掘って食べ物をさがしたり、早く走ることができるように体は台形型になっていますが、豚はどんどん改良されロースが多く取れるように胴も長く、食べ物は人間が与えるため鼻先で掘る必要もないため、長い体形になっているそうです。

今でもどんどん改良されていて、子豚を沢山産んでも大丈夫なように乳房も10~18もあり、一度に12~15頭も子豚を生むそうです。

豚の性格はとてもきれい好きで、食事をするところと排泄をするところはちゃんと分けていることや、自分の子豚ではない子豚でも代理で育てるということも教えていただきました。

そして、良いお母さん豚の条件は、子豚を順調に育てられる「優しく、母性愛が強く、子豚の吸いやすい乳房をしている」ということだそうです。

また、近年では人間と豚の内臓はよく似ていることから、人間の臓器移植にも豚の遺伝子を組み替えて人間に移植をするということも研究されています。

最後に、先生から子どもたちに伝えたいこととして、「安心・安全な食品を生産する手助けをしたいという使命感を持って産業獣医師の仕事をしています」とのこと。

それはつまり、「生産者と消費者の橋渡しをすること」「科学的視点で両者に接すること」「法令遵守」を大切にしているということでした。そして子どもたちには、「『いただきます』という言葉は命をいただくという意味です。日本ではお弁当もふくめ、1日一人あたりおにぎり1個分の食べ物が捨てられています。『命をいただいている』ことを考えて食べ物は感謝して大切に残さず食べましょう」とお話されました。

食肉として皆さんの口に入るまでは、色々な仕事の人がかかわっています。

プログラム終了後の子どもたちのアンケートには、「牛の性格や獣医師の使命が知れました。今度牛を見た時は今日のことを思い出してみたいです」「豚のおっぱいがたくさんあることがおもしろかった」というような感想がありました。

次回は、いよいよ今年度最後の獣医師体験プログラム「馬」についてです。

皆様のご参加をお待ちしております。

「獣医師体験プログラム」