令和5年度 獣医師体験プログラム「身近な大動物 牛」(10月21日)

芝崎牛の診療所の芝崎繁樹先生を講師にお招きして、「身近な大動物 牛」と題してお話をしていただき、小学2年生から中学3年生まで幅広い学年の参加者がありました。

芝崎牛の診療の芝崎先生

先生の自己紹介のあと、最初に牛には肉用牛と乳用牛がいるという説明がありました。その中でも、肉用牛は短角や無角、体毛も褐色や黒など数種類に分かれており、乳用牛はジャージーやホルスタインなどがいます。日本で飼育されている乳用牛の99%が、ホルスタインということでした。

次に牛のライフサイクルについてです。乳用牛の場合はだいたい14~16ヶ月になると成牛になり、子牛を産みます。その後、一年に一度出産し、生涯の間にそれが3~4回、多くて5~6回繰り返されるそうです。乳用牛は子牛を産むことでミルクが出るようになります。

肉用牛の場合は、だいたい14ヶ月で出産し、その後は乳用牛と同じように年に一回出産し、それが5~6回繰り返されます。子牛を肉牛として出荷するには28ヶ月くらいかかり、乳用牛より時間がかかるとのことでした。

ただ、乳用牛でオスの子牛が生まれた場合、ミルクが出ないため乳用牛としての役割を果たせません。肉用牛の場合はオス・メス関係なく出荷できるため、乳用牛のオスの子牛は肉牛となり約20ヶ月で出荷されます。

また、乳用牛に人工授精で和牛を産ませるということも行っているそうです。

次に牛のからだについて、牛の身体の特徴をいろいろと教えていただきました。

牛の歯は上の前歯が無いことや、牛の胃は4つあり第1胃の大きさはドラム缶一本分くらいあること。また、多くの微生物が生息していてそれが草を消化し、その微生物も栄養源となっているとのことでした。第1胃は食道が進化したもので、消化液が出るのは第4胃だけだそうです。

牛は反芻動物で第1胃から順番に第4胃まで嚙み返しを繰り返しながら送っていきます。

また、その牛のげっぷにはメタンガスが放出されるメカニズムがあるので、その影響は地球上にあるメタンガスの約4%にあたるそうです。

牛を扱いやすいようにと鼻に鼻環という金属の輪を取り付けているのですが、それを見た子どもから「牛って鼻呼吸しかできないって聞いたのですが、苦しくないのですか?」と質問がありました。

それには、「牛の鼻は大きいし、輪っかが鼻の穴全部をふさいでいるわけではないので、呼吸もできますよ」とお答いただきました。

そして、飼育されている牛の第2胃には意図的に磁石を入れてあるのですが、その理由は、牛はなんでも舐めてしまうので、その際、壁の中の釘などもお腹に入ってしまうことがあるそうです。第2胃の横には横隔膜があり心臓もあるため、その釘が心臓に刺さってしまったり胃を傷つけてしまうことを防ぐために磁石を飲ませ、ある程度したら磁石を取り出すとのことです。その磁石はとても強力なものを使用しているので、磁石を取り出すために同じ磁石に紐をつけて牛に飲ませ、釣りをするように胃の中の磁石をくっつけて引っ張り出すそうです。

「これが胃から出てきたものですよ」と見せていただくと、釘や小さな鉄くずなどが入っており、子どもたちはとても驚いていました。

牛の身体についていろいろお聞きした後、次は牛の病気や治療についてのお話をしてくださいました。

牛を病院に連れて行くのは大変ですので、牛の診察は往診が基本です。先生の車には、聴診器やお薬、検査につかう長いビニール手袋や注射器、点滴など、治療に必要な物が沢山乗せられているとのことです。

牛がかかる病気はいろいろありますが、代表的な病気の一つが乳房炎で、牛の乳房が炎症を起こす病気です。その際、抗生物質を乳頭から入れるのですが、その薬には青い色がついていて、しぼると青いミルクがでます。抗生物質を使ったミルクはしばらく出荷できないので、間違えて出荷してしまわないようにこのような工夫がされているそうです。

牛の治療に使う道具を色々と見せていただき、大きな注射器を見せてもらった時には、子どもたちから「えー!いややー!」と大きな声が上がっていました。

また、長い手袋を見せてくださり、「何に使うと思いますか?」と先生が聞かれると、子どもから「直検!(直腸検査)」と声があがり、これには先生も「よくこんな難しいことを知っているね!」と驚かれていました。

牛の診療では、農家さんから詳しい症状を聞きながら牛の様子を観察し、お尻の穴で体温を測り、聴診器でお腹の音を聞きます。お腹の音は草が胃の中で転がっている音が雷のように響いて聞こえるそうです。手術する場合は、牛が立ったままの状態で行うことなどもお聞きしました。

牛や馬などは、寝る時は横になることはありません。横になっているということは、よほどどこか調子が悪いか、最悪の場合は命を落としてしまうような状態だそうです。手術する場合も、あまり強い麻酔をかけて寝てしまうと命に係わるので、局所麻酔をゆるやかに使用して、立ったまま行うそうです。

その他にも、牛の鼻紋は、人間の指紋のように個体によってそれぞれ違うので、個体識別に役立つことや、イヤータグが牛の個体番号を表すことなど、牛にまつわるお話を存分に聞かせていただきました。

子どもたちからも多くの質問が寄せられ、予定時間をオーバーするほど熱心に聞いていました。

アンケートからも「もっと牛の生態について知りたくなりました」「他の牛のこともきいてみたいです」「牛のお腹に磁石があるのがおどろきました」と、牛に関心を持ってもらえた様子が伺えました。

獣医師体験プログラムは、様々な現場でご活躍の獣医師の先生に講師をお願いし、幅広い獣医師の世界を知っていただける内容となっております。皆様のご参加お待ちしております。

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