令和5年度 獣医師体験プログラム「野生動物との共生」(6月11日)

6月11日(日曜)、株式会社野生動物保護管理事務所 関西支社研究員で獣医師の箕浦千咲先生を講師にお迎えし、前半の1時間は小学校低学年を対象に、後半の1時間は小学校高学年・中学生を対象にして、獣医師体験プログラム「野生動物との共生」を開催しました。

講師 株式会社野生動物保護管理事務所 箕浦先生

低学年の子どもたちに野生動物に抱くイメージを聞いてみると、「葉っぱを食べる」「自然の中にいる」「クマとかかなあ」といった意見がでました。先生は子どもたちのイメージも大事にされながら、人と野生動物の関わりの概念を「人間からお世話されずに自分の力だけで生きている動物が野生動物だよね」とわかりやすく説明してくださいました。

そして、野生動物の獣医師の仕事は、「生き物のつながりとすみかを守ること」であると教えていただくと同時に、生き物どうしがつながっていることを「生態系」と言いますが、その生態系を守るということは「地球のお医者さん」であると言えるのだそうです。
また、高学年以上の子どもたちには、「色々な生き物がいて、色々な「生態系」があります。これを「生物多様性」と言います」という説明もしていただき、参加してくれた子どもたちがより専門的な知識を学ぶきっかけも与えてくださいました。

生態系のピラミッド

そして、箕浦先生が以前携わっておられた対馬のツシマヤマネコ保護のお仕事についても触れてくださいました。交通事故などで負傷したツシマヤマネコを治療し、自力でエサを捕ることができるように訓練してから自然に返すという取り組みをされていたとのことですが、ツシマヤマネコは絶滅危惧種に指定されており、現在100頭ほどしか生息していないそうです。
ツシマヤマネコが減っているのは、交通事故や野良犬に襲われたり、感染する病気を持った野良猫とケンカするなどの理由のほか、自然が失われることでツシマヤマネコのエサとなる生き物が減っているからだそうです。

野生動物による問題のお話の中では、「野生動物と人が近づきすぎている」ことについても説明していただきました。人が世話をせず自力で生きている野生動物は、本来であれば人を怖がるはずなのに、「近づきすぎている」とはどういうことなのでしょうか。

原因の一つとして、人の生活圏に出てきたときに人からエサをもらうことで慣れてしまうということが挙げられるそうです。
「野生動物には本来のすみかで安全に暮らしてほしい」と願いながら、畑を荒らされたり襲われたりして困っている人たちを助けるのも、箕浦先生のような獣医師のお仕事だと教えていただきました。畑を柵で囲って野生動物から作物を守るほか、わなに捕まったクマを吹き矢や麻酔銃で眠らせて安全に山へ返すということも行っているそうです。こうした取り組みは、動物の専門家である獣医師だからこそできる仕事だそうです。
今回は、なかなか目にすることがない吹き矢の実演を、実際に見せていただくことができました。

また、発信器入りの首輪を付けた動物の居場所をアンテナで追跡するという調査を、参加した子どもたちにも体験させていただきました。この追跡調査は、動物の行動範囲や生態を知るのに役立つそうです。

今回の体験では、発信器を缶の中に入れた物を使用しています。アンテナを持つこと自体が初めての子どもたちは、発信器に近づくとアンテナからピーピーという音がするため、ドキドキワクワクしながら探り当てました。

助手の榎本先生と一緒に発信器を探り当てます

最後に「野生動物と人が同じ地球で幸せに暮らすために私たちができること」として、先生から5つの項目を挙げていただきました。

動物から人にうつる病気があるだけでなく、人に見られたり触られたりすることが動物のストレスになります。
また、ゴミの分別については、ウミガメがビニール袋をクラゲと間違えて食べてしまって死んでしまったり、鼻の穴にストローが刺さって苦しそうにしている実例を挙げて説明してくださいました。
陸で捨てられたゴミが川を下って海に流れ着いてしまいますので、地球環境全体のこととしてゴミの分別が大切であり、先生が最初に言っておられた「地球のお医者さん」という意味がよくわかりました。
そして、「この5つのことが実行できたら、皆さんも地球のお医者さんの仲間入りですよ」と締めくくっていただきました。

先生のお話の後は、先生が持って来て下さった野生動物の標本などにも触れさせていただきました。

参加した子どもたちからは、「動物の骨を見ることができて良かった」「動物の毛がいろんな色があったのがおもしろかった」「はく製を触れたことが興味深かった」「生態系を守ることをお仕事にされていることは、本当にすばらしいと思いました。地球のお医者さんだということも、とてもすばらしいと思いました」といった感想が寄せられました。

獣医師体験プログラムは、幅広い獣医師の世界を体験し、学びを深めることにより、人と動物の共生とは、人の生活に深く関わるものであることへの気づきを促し、様々な人と動物の共生の在り方について理解を深めていただけるプログラムです。
7月、8月の獣医師体験プログラムは、夏休み期間に「動物園」「エキゾチックアニマル」「公務員」の分野で開催を予定しております。
皆さまのご参加をお待ちしております。

獣医師体験プログラム