令和4年度 獣医師体験プログラム「私たちの暮らしと動物とのかかわり」(2月26日)

2月26日(日曜)に獣医師体験プログラムを開催し、9名の小・中学生が参加してくれました。兵庫県農業共済組合の畠中みどり先生を講師にお迎えし、産業動物の牛について教えていただきました。

牛の種類は大きく肉用牛と乳用牛に分類されます。身近なところでは、肉用牛の肉専用種である黒毛和種に「神戸ビーフ」も分類され、褐毛和種は「赤牛(あかうし)」と呼ばれており、高知県に多いそうです。


世界の乳牛の中では、日本ではホルスタインがおなじみですが、ジャージー種は大山だいせん(鳥取県)にたくさんいるということでした。



「酪農場にいる牛は、オスとメスがどれくらいいるかわかりますか?」という先生の質問に、子どもたちはどれくらいの割合でオスとメスがいるのか想像しているようでしたが、すぐには見当がつきません。 しかしこれは引っ掛け問題で、「ヒトと同じでお乳が出るのはメスだけです。だから酪農場にいる牛は全頭メスなんですよ」と先生に説明していただいて、「なるほど!」と気がつきました。
酪農場でオスが生まれると、しばらく飼育された後、肉用牛を肥育する農場へと移されます。この肥育農場で約25ヶ月まで飼育されてから出荷されているのだそうです。
メスは生後15ヶ月で人工授精、妊娠期間を経て24ヶ月で出産し、乳牛となります。朝夕2回の搾乳で、1日で1頭あたり約30㎏のミルクを生産しています。1年1回の分娩を目指し、人工授精・受精卵移植など牛の出産に関わる診療も産業動物獣医師が行っています。
兵庫県全体では、肉用牛が約57,000頭、乳用牛が約13,000頭飼育されており、その診療に当たる産業動物獣医師は80人ほどおられるそうです。




牛用のマイナンバー制度である牛の個体識別番号についてのお話も聞かせていただきました。生まれた年や生まれた場所、飼養された場所など移動履歴までわかるようになっているのだそうです。
参加したお子さんからは「牛のマイナンバーは同じ番号にならないのですか?」という質問がありましたが、日本国内全ての牛たちの10桁の個体識別番号は、独立行政法人家畜改良センターというところで管理されているため、同じ番号にはならないのだそうです。



先生のお話を聞いてから、スタッフも購入した牛肉のシールに記載されている個体識別番号を入力して検索してみました。すると、その牛は熊本県の牧場で生まれ、長崎県の牧場で育てられ、鹿児島県の食肉流通センターでお肉になったことがわかりました。牛が生まれてからお肉として私たちの家庭に届くまでの間に、実に多くの方々が関わっているということです。

牛がどんな動物かという説明の中では、模型も見せていただきながら牛の4つの胃の働きについて教えていただきました。




牛の病気には風邪や下痢など内科的なものや、中耳炎などの耳鼻科的なものなど様々あるそうですが、現在ではレントゲン検査の機材を持ち運べるようになったため、往診の際に現場で撮影し、モニターで確認できるようになったそうです。
妊娠鑑定はエコーを使用して農家さんと一緒に確認されるそうですが、牛の赤ちゃんが口を開けて呼吸していることがわかる動画も見せていただきました。
いよいよ出産となったとき、夜に獣医師に呼び出しが入って駆けつけることもあるそうです。





牛には、人間の場合と同じような保険制度(健康保険や生命保険に相当する共済制度)があります。この制度は農家さんの掛け金と国の補助金で成り立っていて、兵庫県では畠中先生が所属されている兵庫県農業共済組合が共済事業を行っておられます。



「安心・安全な食品を生産する手助けをしたい、という使命感を持って産業獣医師の仕事をしています」と畠中先生。それはつまり、「生産者と消費者の橋渡しをすること」「科学的視点で両者に接すること」「法令遵守」を大切にしているということでした。そして子どもたちには、「『いただきます』という言葉は命をいただくという意味です。日本ではお弁当もふくめ、1日一人あたりおにぎり1個分の食べ物が捨てられているのが現状なので、『命をいただいている』ことを考えて食べ物は大切に残さず食べましょう」と結んでくださいました。


牛の模型に夢中になり、体のしくみを確かめている子どもたち


令和4年度の「獣医師体験プログラム」は今回が最後のプログラムでした。
令和5年度も様々な現場でご活躍の先生方をお招きし、「獣医師体験プログラム」を開催いたします。お楽しみに!


獣医師体験プログラム(令和5年度の開催予定は近日中にご案内いたします)