2023.02.05
令和4年度 獣医師体験プログラム「人と共に生きてきた馬について」(2月5日)
2月5日(日曜)、しあわせの村内馬事公苑にて「獣医師体験プログラム」を開催しまし
た。馬事公苑は、乗馬教室やポニー騎乗など誰もが気軽に乗馬を楽しむことができる施設
で、公益社団法人神戸乗馬倶楽部様が運営されています。公益社団法人神戸乗馬倶楽部様
のご協力のもと、講師に大阪公立大学の石川真悟先生をお招きして、「人と共に生きてき
た馬について」と題してお話をしていただきました。会場の都合上、保護者の方にはご見
学いただけず、子どもたちだけの参加となりましたが、どのお子さんもとても熱心に話を
聞いていました。
馬や牛などを診る獣医師のことを産業動物獣医師といい、石川先生の所属されている病院では、チーム医療で複数の先生で担当して診ているとのことでした。
まずは、馬とヒトとの違いについてスライドを見ながらお話を進めていただきました。
最初のスライドで食事についての違いを説明していただきました。ヒトは肉や野菜を食べる雑食ですが、馬は草だけを食べる草食動物です。とても大きな盲腸がお腹の中のほとんどを占めていて、盲腸の中にいる多くの菌が草を馬のエネルギーに変えており、そのおかげで馬は草だけで生きていけるのだそうです。「それが馬と菌との共生になります。腸内の細菌と草の関係はヒトも同じで、野菜など食物繊維を摂ることが健康にも大切です」と教えていただきました。
子どもたちからの感想の中にも「盲腸(もうちょう)がすごく大きいということがおもしろかった」「うまのちょうがあんなに大きいのがびっくりした」という声がありました。
ヒトがエネルギーにできないものを馬が食べてエネルギーに変えるということは、ヒトと馬との共生の根幹にもなることです。なぜなら、もし、馬がヒトと同じ食べ物を食べていたら、ヒトと馬との食べ物の取り合いに繋がってしまうからです。
ただ、本来、草だけで生きていける馬が競馬や乗馬などスポーツに使われることで、よりエネルギーが必要となり草以外の飼料を食べることで、疝痛(せんつう)というものが起こることもあるそうで、最悪の場合は死に至ることもあるそうです。そういった疝痛が起こったときには馬を専門に診る獣医師が治療にあたります。
次に、ヒトと馬の歯の違いについて、お話ししていただきました。ヒトは上下の歯が綺麗に並んでいますが、馬の場合は前歯と奥歯の間に隙間があいています。そこにハミ(馬具の一種)をはめることで、ヒトが馬をコントロールすることができるようになったとのことでした。
また、馬の歯のケアも重要で、海外では犬や猫のように庭先で馬が飼われているところもあるそうで、馬専用の歯医者さんも居るとのことでした。
馬の歯の治療には開口器という器具が使用され、やすりのような歯ブラシで磨きます。
馬は歯が伸び続けるそうで、野生の馬は自然の草を食べているので大丈夫ですが、人間に飼われている馬は歯が歪(いびつ)になったりするため、やすりのような歯ブラシで歯を削る必要があるということでした。実際にこの開口器と歯ブラシを見せていただき、子どもたちも手にしてみました。思いのほか重く、子どもたちからも「馬は重く感じないんですか?」という質問がありました。
馬も重く感じるそうですが、治療中に動くと危ないため鎮静剤を打ったりしながら使用するそうです。
そして、馬の口に装着するハミが発明されたことで、ヒトが馬に乗ることができるようになったことから、軍用馬であったり、農用馬であったりと、人間の生活の中に馬が入ってくることで、ヒトと馬とが共生することができるようになったということも教えていただきました。
現在、日本では、馬は主に競馬や馬術などスポーツの場面で活躍しています。馬の調子が悪いのに無理やり競技に出していないか、競技に使っても良いかなどの診察をして獣医師が競技を支えているのです。
次に、ヒトと馬との手についての違いについても教えていただきました。
馬は中手骨と中足骨が長く、つま先立ちで歩いたり走ったりしている状態になっています。
この中手骨は人間でいうと、指の付け根から手首までの短い骨にあたります。
また、馬には指が一本しかありません。大昔は4本あったそうですが、生活場所が森林から草原へと変化していったことや、それに伴い敵から逃げるために早く長い距離を逃げる必要が生じたことなどから、それに適応し今は指が一本しかないそうです。
早く走るためには腱や靭帯が大切ですが、500キログラムの体重を細い脚で支えているため、1トンほどの負荷がかかるらしく、屈腱炎などの病気や、骨折も多いそうです。その際、レントゲン検査やエコー検査を経て手術などを行い、治療します。馬の獣医師は人間のスポーツドクターの役割も果たしています。
最後に、これからの馬との共生を考えていくうえで考えてもらいたいことについてのお話をしていただきました。「馬は経済動物のため、経済性がないと判断されると処分されてしまいます。そういった馬を救うために、今、日本では競技引退後に余生を過ごすことができる牧場などもできてきているそうです。伴侶動物としての馬についてもこれから関心を持ってもらいたいです」とのことでした。
先生のお話の後、馬事公苑のスタッフの方に案内していただきながら、馬事公苑の厩舎を見学させていただきました。23歳になる馬の大人しく、穏やかな瞳、そして、柔らかな馬の毛並みに、子どもたちも馬の温もりを感じた様子でした。
獣医師体験プログラムは年度内、残すところあと一回となりました。「私たちの暮らしと動物との関わり(産業動物)」のお申し込みは下記リンクよりお申し込み下さい。