令和4年度 獣医師体験プログラム「身近な大動物・牛」(12月10日)

12月10日(土曜)、「芝崎牛の診療所」の芝崎繁樹先生を講師にお迎えし、獣医師体験プログラム「身近な大動物・牛」を開催しました。

最初に先生に自己紹介をしていただいてから、「牛とはどんな動物なのか」について説明していただきました。



畜産の分野で分けると牛には肉になる肉牛と牛乳を搾る乳牛がいますが、「牛」と一言で言ってもいろいろな種類の牛がいて、身体の色や角の有無、等でも分けられています。

乳牛から牛乳を搾るためには、子牛を産まなければお乳を出しません。だいたい16ヶ月頃で最初の子牛を産み、その後300日ほど牛乳を搾ることができます。そして、人工授精で妊娠するということを4~5回繰り返すそうです。
ただ、オスの牛は乳牛にはなりませんので、去勢したあと20ヶ月くらいで「国産牛」として肉牛になり出荷されます。



肉牛は28ヶ月~30ヶ月くらい育てたら出荷されます。ホルスタインの雌牛に和牛の受精卵を移植し、出産した牛は牛乳を出し、生まれた子牛は和牛として買い取られるということもあるそうです。



最終的には、どの牛も皆さんが普段食べているお肉として出荷されることになります。

次に、牛のからだや病気について教えていただきました。

牛の足の4本の面積は人間の大人の靴の大きさとほぼ同じ大きさで、例えば体重600㎏の牛と60㎏のヒトとを比較すると、足1本にかかる体重はヒトだと30kgに対し、牛はその約5倍の150kgもの体重がかかっていることになります。



他にも牛には上の前歯が無いことや、胃が4つあること、草の消化は胃の中の膨大な微生物が行っていること等もお話してくださいました。
特に、胃については、興味深いお話を聞かせていただきました。「牛の不思議」として、牛は光るものを舐めたり、壁をかじったりする習性があり、その際、釘などを飲み込んでしまうことがあるそうです。そういったものが胃の中に入ってしまうと、胃の壁に突き刺さったり、胃の横にある心臓に刺さってしまい、死んでしまうことがあります。そのようなことを防ぐため、第2胃に強力な磁石を飲ませるそうです。第2胃は草を反芻するために大きく動くことからこの胃に飲ませるということでした。
実際に、牛の胃から取り出した磁石とそれにくっついて出てきた釘などを見せてくださいました。



病気になった場合の診察については、牛は犬や猫のように飼い主が病院に連れて行くことは難しいので、往診になります。
牛は、どこが痛いとか苦しいなど、自分の病状についてしゃべってくれませんので、世話をしている農家の方から症状等を詳しく聞き、牛の状態を聴診器や触診、場合によっては肛門から手を入れての直腸検査等で確かめます。
診断をしたら、注射や投薬等の治療を行い、点滴をする場合には、500mlのものを10本ほど首の血管から行う場合もあるそうです。
また、手術をするときは寝かせて行うことができないため、立ったまま局所麻酔を使って実施するということでした。



肉への残留を防ぐために、使用する薬によっては食肉用の牛に投与してはいけない期間が決められており、獣医師がこの判断を誤ると農家に大きな損害を与えてしまうことにもつながります。食の安全を守ることも、獣医師には大切な仕事になります。

最後に、牛の「トレーサビリティ」(食を安心して届ける)制度についてお話くださいました。
国産牛には黄色い耳標が装着されており、それには10桁の数字が印刷してあります。登録にはこの10桁の番号と牛の鼻紋(ヒトの指紋のようなもの)を登録します。
スーパーなどで国産牛のお肉を買うときには、ラベルにこの個体識別番号という10桁の番号が記入されていて、スマートフォン等から品種・生年月日・飼育場所・飼育舎・移動の履歴等を調べることができるようになっています。



最後に、先生から「お肉を食べるときには、命をいただいているという感謝の気持ちを忘れずに食べてもらいたい」とお話がありました。
お話の終了後には、先生から普段の往診時に使用している牛の薬や使用する大きな注射器等を見せていただき、子どもたちも興味津々で見ていました。



アンケートには、「牛の胃の中に磁石を入れているのがすごいと思った」「牛にもいろいろな病気があることがわかった」「生まれてからお肉になるまでの経過を知り、もっと大事にお肉をいただこうと思った」等の感想がありました。


こうべ動物共生センターの獣医師体験プログラムは、幅広い獣医師の世界を体験し、学びを深めることにより、人と動物の共生が私たちの生活に深く関わるものであることへの気づきを促し、様々な人と動物の共生の在り方について理解を深めます。

年明けの募集につきましては、またウェブサイトをご覧ください。