令和3年度 獣医師体験プログラム 「感染症って何?」(2月27日)

2月27日(日曜)、大阪府立大学 獣医内科学研究グループの笹井和美先生を講師にお招きし、第7回目となる獣医師体験プログラム「感染症って何?」を開催しました。当日は、11名の子どもたちが参加してくれました。

感染症はどれですか?
感染症はどれですか?


「感染症はどれですか?」という先生の質問からお話が始まりました。


新型コロナウイルスの感染拡大やインフルエンザなどで「感染症」という言葉には馴染みがあるかもしれませんが、他の病気とどう違うのか…ということを改めて考えてみる機会はなかなかありません。

「感染症」とはうつる病気であり、ウイルスや寄生虫などの病原体が体内に侵入して症状が出る病気で、うつらないのは感染症以外の病気ということになります。身近な病気をいくつか挙げながら、どれが感染症なのか説明して頂きました。

感染症とは何ですか?
感染症とは何ですか?


感染症にはインフルエンザ、水疱瘡、麻疹のように「人から人」にうつる病気、犬のフィラリア症のように「動物から動物」にうつる病気、狂犬病のように「動物から人(人から動物)」へうつる病気があるということです。犬のフィラリア症は、猫の抵抗力が落ちている場合には猫にもうつる場合がまれにあるということや、狂犬病は犬に咬まれてうつる場合が多いのですが、猫から人にうつったり、理論上は人から犬にうつることも考えられるということをお聞きして、「人から動物に病気がうつることもあるなんてビックリした」という子どもたちの感想がありました。

感染症にかかるとどうなりますか?
感染症にかかるとどうなりますか?


感染症にかかると、咳、くしゃみ、鼻水、熱、腹痛、頭痛、かゆみ等の症状が出ますが、これらは他の病気でも起きる症状ではあるものの、違いは「感染症はうつる病気」であるということです。

「飼っている動物が病気になったときには、まずは電話で症状を伝えて連れて行ってもいいか病院に確認することが大切」「人も動物も体の調子が悪いときに病院に行きますが、病気のときは抵抗力が落ちているため普通よりも感染症にかかりやすくなるので注意することが大切」と説明がありました。

日本は世界と比べて感染症対策が行き届いている国で、コロナウイルスの場合でも、「手洗い」「うがい」「消毒」「マスク」といった感染対策をしっかり行っているため、感染する人が比較的少ないと言えるそうです。国によっては、このような感染対策を徹底するのが難しい国もあるそうです。

感染症の原因は?
 感染症の原因は?


感染症の原因になっているものとして、ウイルス、細菌、寄生虫、真菌(カビ)、などの病原体が挙げられます。感染する人としない人との違いは抵抗力で、抵抗力が落ちていると感染症にかかりやすくなるそうです。

病原体とは?
病原体とは?


人間の髪の毛の断面、花粉、ほこり、飛沫等と比較した細菌やウイルスのサイズのお話の中で、いかにウイルスが小さいものかを教えて頂きました。マスクによる予防効果は完全ではないものの、マスクを通して出てくるウイルスの数だと人には感染しにくく、合わせてソーシャルディスタンスを保つことで効果があがるのだそうです。

 

予防(うつらないようにするには)
予防(うつらないようにするには)


感染症の症状は、病原体が体内に侵入(感染)して、症状が出ない期間(潜伏期間)を経て、体内で増殖することによって発病します。薬を飲むなどの治療によって体の抵抗力が上がり、体内の病原体が減っていくことで治癒していきます。薬やワクチンだけではなく、人も動物も体を自分で治そうとする力と、薬の力との両輪で治していくのが一般的な方法ということも聞かせて頂きました。

免疫の3つの主な仕組み
免疫の3つの主な仕組み


免疫に関するお話も聞かせていただきました。

一つは自然免疫(生まれつき備わっている免疫)で、もうひとつは獲得免疫(一回罹って治った経験やワクチンを受けることで獲得できる免疫)です。例えば新型コロナのワクチンを打っていない場合、自然免疫で戦おうとしても未知のウイルスのため勝てなくて病気になってしまいます。そのために、ワクチンを使って身体の中に事前に抗体をつくって、かかりにくくしようとしているのです。

免疫には3つの主な仕組みがあり、「① 病原体を食べる(好中球・マクロファージ)」「② 抗体を作る(B細胞)」「③ 感染細胞を殺す(キラーT細胞)」という働きで体から病原体を減らすことで病気が治っていくということについても詳しく教えて頂きました。

そして、感染症からお話を変えて獣医師のお仕事についても紹介して頂きました。

獣医師の仕事
獣医師の仕事


獣医師の仕事といえば、都会では「犬や猫のお医者さん」、農村地帯では「牛や馬のお医者さん」、他には「動物園や水族館のお医者さん」等をイメージされると思いますが、実際に大学で教えるのは、牛、羊、馬、鶏などの産業動物や、犬、猫、ウサギなどの家庭で飼育される伴侶動物で、変わったところではハマチ、マグロ、タイなどの魚、ちょっと変わったところではミツバチについても勉強していると聞かせて頂きました。人間の医師が人間だけを治療するのとは異なり、実に様々な動物について学び、治療にあたっておられることがわかりました。

私たちが生きていくために尊い命(食べるもの)を提供してくれる動物と、家庭で一緒に暮らす動物について大学では学ぶのだそうです。あまりにも動物の種類が多すぎるため、象やヘビ、カエル等、大学で学ぶことのできない動物については、卒業後に獣医師になった後、大学で習ったことを応用して、学会などに入って勉強されるのだそうです。大学では教わらなくとも、様々な動物を診察する責任があるので、獣医師となってからも勉強を続けられるという、普段なかなかお聞きすることのないようなお話に、子どもたちも関心を持って聞き入っていました。

獣医師の活動分野
獣医師の活動分野


日本全国にどれくらいの数の獣医師がおられるのか興味深いところですが、約40,000人だそうです。そのうち獣医事に係わっておられるのが約36,000人、小動物の獣医師が約16,200人、産業動物の獣医師が約3,800人、公務員としてお仕事をされいる方が約9,800人、研究機関でお仕事をされている方が約3,000人、他に野生動物関係分野、動物愛護関係分野、海外研究分野など、幅広い分野で活躍されているとお聞きしました。「公務員として活躍している獣医さんの数にビックリした」「公務員として働いているということを初めて知った」という子どもたちの感想もありました。

世界の目標SDGs
世界の目標SDGs


獣医師のお仕事のお話の後は、SDGsについても触れて頂きました。

「パートナーシップで目標を達成しよう」という目標については、世界中に広がっている新型コロナウイルスが一つの国だけが治ったとしても人が国から国を移動すればまた元通りになってしまうので、みんなで協力し合って、一人ひとりが自分のこととして考えることが大切だと聞かせて頂きました。



また、人獣共通感染症(動物由来感染症)について解説して頂きました。

人獣共通感染症に感染しないためにはどうすればいいのか?
人獣共通感染症に感染しないためにはどうすればいいのか?


人獣共通感染症とは、人から人ではなく、動物からうつるという経路がはっきりしている感染症のことです。人獣共通感染症に感染しないためには、「過剰な触れ合いをひかえる」「野生動物との接触は避ける」、「生肉を餌として与えない」、「動物に触れたり、公園で遊んだ後で手洗いをする」など、私たち人間が気を付けることについても教えて頂きました。
ちなみに、動物からうつるということから厚生労働省では「動物由来感染症」と表現していますが、獣医師を所管する農林水産省では実際には相互で感染するものであるので「人獣共通感染症」と表現し、環境省ではまた別の「人と動物の共通感染症」といったように、省庁によって感染症の表現の仕方が違う点についても説明して頂きました。

まとめ
まとめ


飼っている動物の調子が悪そうな場合は獣医さんに連れて行きますが、感染症の典型的な症状があれば、感染拡大を予防するためにも、正確に症状を伝える必要があります。もし一緒に暮らしている飼い主が同じように調子が悪い場合は、病院に行ったときに、自分の体調のことだけでなく飼っている動物の情報を必ず伝えることが大切だと教わりました。人獣共通感染症だった場合、ペットを飼っていることなどの情報を伝えることでお医者さんも人獣共通感染症である可能性を考えられ、適切な治療を受けることができるからです。

プログラム終了後、参加者から獣医師になるための勉強法について質問がありましたが、「自分の国の言葉できちんと考えられて、自分の意見を伝えられることが大切」といったアドバイスを頂きました。


令和4年度も様々な現場でご活躍の獣医師の先生方に講師をお願いし、獣医師体験プログラムを開催致します。日程が決まり次第、こちらのウェブサイトでお知らせ致します。是非、獣医師の世界を体験しにご参加下さい。