2022.01.15
令和3年度 獣医師体験プログラム 「野生動物との共生」(1月15日)
1月15日(土曜)、株式会社野生動物保護管理事務所 関西支社 研究員の箕浦千咲先生を講師にお招きし、第5回目となる獣医師体験プログラム「野生動物との共生」を開催しました。当日は、11名の子どもたちが参加してくれました。
先生の自己紹介の後、野生動物とは「人間からお世話をされずに自分の力だけで生きている動物」であること、兵庫県内にいる野生動物のお話、もともと日本にはいなかった外来種についてのお話をして頂きました。
また、野生動物に関わる獣医師のお仕事とは、「生き物のつながりとすみかを守ること!」であり、生態系のバランスを守る「地球のお医者さん」だと聞かせて頂き、獣医さんといえば、子どもたちは、“身近なわんちゃんや猫ちゃんのお医者さん”というイメージを抱きがちですが、これまでにイメージしていた獣医さんの仕事の枠組みを超えて、とても幅広い分野にまたがっているのを知ることができました。
対馬で野生動物保護の仕事をされていた先生のご経験から、傷ついたツシマヤマネコが保護されてから自然に返されるまでのお話や、ヤマネコが減っている原因に「交通事故」「餌やすみかが減っている」「野良猫から病気がうつる」「野良犬に襲われる」などがあることを教えてもらい、対策について紹介しました。
「交通事故」をなくすためには、注意を促す看板の設置やパンフレット、道路の下の排水管(カルバート)をヤマネコが通れるようにする等の対策が考えられる、とのこと。
「餌やすみかが減っている」という現状に対しては、ヤマネコの食べ物である「ネズミ、鳥、カエル、虫」を増やすためにネズミのエサのどんぐりの樹を植えたり、鳥が来るような田んぼを作る活動等や、「野良猫から病気がうつる」ことを防ぐには、野良猫からの感染症を防ぐため「対馬市ネコ適正飼養条例」による、飼育するネコ以外への餌やりの禁止・屋内飼育の推奨・不妊化処置のお願い・マイクロチップ登録の義務化等の対策がされていることをお話し頂きました。また、「野良犬に襲われる」ことを防ぐためには放し飼いをせず繋いで飼うように「対馬市犬取締条例」も制定していることを紹介し、犬の飼育者が法を守り、飼い主責任を果たすことが不可欠であるというお話もされました。
野生動物の問題については、増えすぎて生態系を壊した例としてシカの問題を取り上げ、シカが増えすぎたところでは草や木の皮が食べつくされ、山が荒れて生態系のバランスが壊れたという実例が挙げられました。ヤマネコも自然が破壊されるとネズミが減り、ネズミが減るとヤマネコも減るという関係があり、生態系のバランスがとても大切であるということがわかりました。
また、生態系のバランスを壊す原因としては、「開発」「雑木林等の管理不足」「鳥獣による被害(増加による被害)」「化学物質(農薬等)」「外来種(分布域外に生息・生育する生物)」「地球温暖化等の地球環境の変化」等があります。
野生動物の問題を解決するためには、野生動物の痕跡(ぬたば、イノシシの泥こすり、シカの角研ぎ、イノシシの傷跡、イノシシのベッド等)、足跡や糞、センサーカメラ調査、発信器をつけての追跡調査など、野生動物のことをよく調べることが大切であることも教えて頂きました。
成長や体調の変化によるシカの糞の違いや、クマの頭蓋骨からオスとメスを見分ける方法等について、実物の標本を手にしながら教えて頂き、先生のお話に夢中になる子どもたちの姿がありました。
最後に、野生動物とヒトが同じ地球上で幸せに暮らしていくために私たちができることとして、「餌を与えない、近づかない」「ゴミを放置せず決められた場所に捨てる」「むやみに触らない」「外来種は逃がさない」といった心がけについて先生から伝えて頂きました。
野生動物に係わる獣医師の仕事は「生態系のバランスを治す=地球を治す」ことであり、「地球のお医者さん」であるというお話を聞いて「今までは獣医の仕事は動物を守るだけだと思っていたけれど、地球を守ることにもつながるんだ」と実感したお子さんもいました。
先生のお話に興味が尽きない子どもたちに、時間をかけて資料や標本等一つ一つ丁寧に説明をして頂き、子どもたちの関心もますます深まった様子でした。
また、今回の獣医師体験プログラムに参加して下さった皆さんには、しあわせの村温泉健康センター様より、温泉の割引チケットがプレゼントされました。
こうべ動物共生センターの獣医師体験プログラムは、幅広い獣医師の世界を体験し、学びを深めることにより、人と動物の共生が私たちの生活に深く関わるものであることへの気づきを促し、様々な人と動物の共生の在り方について理解を深めます。
次回の獣医師体験プログラムのテーマは産業動物に係わる獣医さんのお話、「私たちの暮らしと動物との関わり」です。
お楽しみに!